「この空の下で」様 一周年記念配布SS Novel「Change The Relation」より |
|
|
|
『 誓い 』 あるホテルの大広間。 そこにはスーツを身に纏った深夜とドレスを着た柚子葉の二人がいた。 今日はある企業の婚約パーティが行われる。忍に頼まれて深夜と柚子葉が参加することになったのだ。 深夜はドリンクが入ったグラスを手にとって横に立っている柚子葉に話しかけた。 「柚子、大分慣れたんじゃないか?」 「え?」 「こういうパーティに参加することに慣れたみたいだけど」 「ううん、そんなことないよ」 深夜と柚子葉は大学に入学してからこういったパーティに出る機会が増えてきた。 勇一と忍の二人の仕事が忙しいということもあるが、浩史が社会勉強として深夜をパーティに参加させるのだ。 パーティに参加する際にパートナーが必要になるときは柚子葉に頼んで一緒に参加している。 数回パーティに参加したおかげか、柚子葉は目上の人と話すことに慣れつつあるようだ。また、浩史と付き合いがある人も柚子葉の人柄を褒めてくれているようで浩史からそういったことを聞くことがある。 二人が会話していると壇上があるほうが騒がしくなった。 「今日の主役の登場か」 深夜の言葉に柚子葉も壇上のほうに目をむける。 おそらく先ほど深夜が言った今日の主役の二人、それにそれぞれの父親が壇上に登っている。 だが、ここからだから見間違いかもしれないが女性のほうの顔がどこか暗いように見える。 「…なんか嬉しくなさそう」 「そりゃそうだろうな」 「え?」 柚子葉の呟きに深夜がすぐに答えてくれた。 壁に寄りかかって飲み物を口にしている深夜に柚子葉が話しかける。 「どういうこと?」 「この結婚は政略結婚なんだ」 「政略結婚?」 「あぁ。今女のほうの会社の業績は良くなくて、もうすぐ潰れるだろうって言われてる。そこに男の会社が援助を申し出る。それで、会社は潰れない。で、援助の代償として娘を差し出したっていう話だ」 「そんなことあるの?」 「俺も詳しいことは知らない。けど、そういう話はよく聞くことは確か。自分の子供を会社を大きくするための道具としか見ていない奴の話もよく聞く。まぁ、今回は違うみたいだけど」 「違う?」 「父親が申し訳なさそうにしてるだろ?」 柚子葉は女性の父親と思われる男性に目をむける。 深夜の言うとおりどこか寂しそうだ。深夜の言うように娘を道具として思っている人のようには見えない。 柚子葉が深夜に視線を戻すと深夜は口を開いた。 「多分男のほうが強引にこの婚約の話を進めたんだろ。女のほうが断れないことをいいことにな」 「そうなんだ…」 「っと、こっち来たな」 深夜は二人がこっちのほうに近づいてくるのを見て姿勢を正した。 柚子葉も深夜の隣に立って二人が近づいてくるのを待つ。 男性は深夜達の前に来ると笑顔で話しかけてきた。 「本日はありがとうございます」 「いえ。遅くなりましたがおめでとうございます」 「ありがとうございます。では、また。…次に行こう」 「…はい」 男性が深夜と話している間、女性はただ後ろで立っているだけだった。 最後に頭を下げて去っていく二人を見て深夜はあることを考えていた。 自分もあの二人と同じように社長の子供という立場にある。 会社を大きくするために自分もどこかの令嬢と結婚してもおかしくない。 だが、浩史は柚子葉との付き合いを認めている。それどころか応援さえしてくれている。 浩史だけじゃない、敬子や慎一、それに恭子まで深夜と柚子葉の付き合いを応援してくれている。 自分はあの女性に比べたらかなり恵まれた環境にいる。そして、今自分が一番大切な女性がすぐ傍にいることに感謝した。 深夜は隣に立っている柚子葉の手をそっと握った。 柚子葉はいきなり手を握られたので深夜のほうに顔を向ける。 「深夜?どうしたの?」 「いや、なんでもない」 柚子葉も深夜の手を握り返す。 大切な人の体温を確かめながら深夜は口には出さないが心の中で誓った。 この手を絶対に離さない、と… |
|
|
|
※この小説の著作権は『タカ様』にあります 写真素材:ミントBlue 様 |
|
|
|
を押して頁を閉じてください |