クリスマスの贈り物


吐く息が白い。
寒い寒い夜。
空気が澄んでいるため夜空には煌く星々が瞬いている。
手袋に包まれた指で苦心して携帯の発信ボタンを押す。
片方の腕には今日の為に用意した物がラッピングされておさまっている。
コールが、1回、2回、3回、4回、5回 ・・・ ・・・ ・・・
部屋から明かりが漏れているから、居るかと思ったけれど。
疲れて寝ているのかな?それとも今は部屋にいないのかな?
携帯の発信をいったんオフにする。
どうしよう?
家を出る前に携帯で連絡入れればよかった。
どうしようかな?もう一度かけてそれで出なかったら諦めよう。
しっかり厚着をしているけれども、今日はなぜかものすごく寒い。
風邪を引いたら大変だから。
部屋の窓からは今も光が漏れている。
もう一度だけ、貴方にコールする。
もう一度だけ・・・・・・


どこかで、携帯の着信の音がする。
夢うつつのなかでぼんやりその音を聞く。
暖かく調節された自室のベットの上で心地よい浅い眠りの中。
巷ではクリスマスで賑わっているだろうにクリスマスイブが終わる2時間前の深夜まで撮影の仕事が詰まっていた。
帰ってきたのはさっきだ。
どうしようもなく疲れていて、ほんの少しだけの仮眠のつもりでベットに横になった。
今日はクリスマスで、沙織に会いたかったけれど会えなかったからせめて直接電話でもと思っていたのに・・・・・・
はっと思って起きた時は、すでに外は明るくなっていた。
ベッドのサイドテーブルの上の時計を見ると朝の6時。
完全に寝過ごした。
携帯を見ると着信が3回。
無論、沙織の携帯番号しか登録していない専用の携帯。
着信相手はもちろん沙織。
やってしまった。
滅多に沙織から着信なんて無いのに、3回もかけてくれていたのに。
どっぷりと後悔が押し寄せる。
今日は、屋外撮影が入っている為7時半にはマネージャーが迎えに来る。
クリスマスなのに今日も深夜近くまで仕事が詰まっている。
仕事が多いのはいいのだが、あまりにも詰め込まれ過ぎている気がするのは気のせいだろうか。
今回の、イブとクリスマスは社長である母親が勝手に入れた仕事。
知らされた時にはすでに断れない状態だった。
沙織との交際を隠している以上事前にどちらかをオフにするのは無理だったからせめて夜電話だけでもと思ったのに。
とりあえず、ベッドから降りて仕事に出かける準備をする。
昨日、風呂にも入らないで寝てしまったのでとりあえず風呂場へ向かい風呂場の扉を開けようとした瞬間勝手に扉が開いた。
「涼雄も風呂?」
中から出てきたのは琉誠。
今日の野外撮影は琉誠と同行だからか、朝に強いこいつは俺よりも元早く起きていたんだろう。
「ああ、昨日風呂に入らないで寝てしまったから」
琉誠と入れ替わりながらそう答えた。
「あ、そうだ、涼雄。 リビングの机の上にお前宛のプレゼント置いてあるから、風呂でたら部屋へ持ってけよ」
琉誠は、そう言うと階段を上がっていった。
「プレゼント?」
気になった俺は、風呂に入る前にリビングへ行ってみる。
琉誠が言ったとおりリビングの中央にある机の上に深い紺色の包装紙と金と銀のリボンで綺麗にラッピングされたプレゼントらしきものが置いてあった。
リボンの間に名刺大のメッセージカードが、挟まれていて何気なく取り上げて見てみると。

【 メリークリスマス by沙織 】

短いメッセージ。
硬直する。
沙織から、俺へのクリスマスプレゼント。
丁寧にリボンと包装を解く。
中から出てきたのは、青灰色の手触りの良いマフラー。


携帯から着信音がする。
その音で、相手が誰かわかる。
2コール目で何とか出る。
「はい、りょ、うくん?」
なるべくちゃんとした声で出る。
『沙織? プレゼント、ありがとう。 大切にする』
とても優しい、心のこもった彼の声。
「うん、今年は、とて、も寒いから使ってね」
気に入ってもらえたようでそれだけでとてもうれしくなる。
『ああ、今日は野外撮影だからこれをしていく』
「うん、お、仕事がんばってね」
イブ、クリスマスと会えないけれどこの電話だけで十分。
『イブの昨日も、クリスマスの今日も会えないけれど、正月の元旦と2日は完全にオフだから一緒に初詣に行こう』
「うん」
『じゃ、ごめんそろそろ仕事へ行く支度しなければならないから、また』
すこし名残惜しそうにそう彼は言って、携帯が切れた。
携帯の通話をオフにして布団に深くもぐりこむ。
昨夜、もう一度、もう一度と何度も迷っているうちに寒空の下で長居をしてしまった為に風邪を引いてしまったみたい。
学校はもう冬休みに入っている。
今日はゆっくり休もう。
風邪をこじらせてしまう前に。
朝から涼君の声を聞けて、だるかった体が少し軽くなった気がするのは気のせいかな?
お正月には直接会うことが出来る。
新年から、良いことがありそうで嬉しくなる。
はやくお正月がこないかな?
そう思いながら、うとうとと瞼がゆっくり落ちて私は眠りの中へ沈んでいった。


-Fin-


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