Bands of brotherhood - 琉誠 編 -
2008 X'mas EP


何気なく見た遮光カーテンの隙間からのぞく窓の外。
門扉の近くに小さな人影が見えた。
門扉についた街灯でそれが誰だかなんとなく確信させた。
雪だるまのように着ぶくれして携帯をじっと眺めている。
涼雄に電話をかけているのか?
しばらくそっとその人影を窺う。
何度かためらいがちに耳元に携帯を持っていき、落胆したように携帯を耳から外す。
その繰り返し。
涼雄はきっと寝ているのだろう。
今日は、いつもに増してハードスケジュールだったはずだ。
俺とは違い、涼雄はモデルのジャンルが幅広い。
ブランド物からカジュアル、果ては、つい最近初めてブライダル関係のものもこなしていた。
双子といっても二卵性のため顔は似ていない。
涼雄と違って俺は中学の時からとあるブランドのデザイナーに気に入られてもっぱらそのデザイナーの専属の為ほかの仕事をあまり入れない。
ほかに仕事をまったくしないわけではない。
基本、俺や涼雄が所属する親が経営するモデルの所属事務所では、モデル自身で仕事が選べる。
俺は、俺が専属しているデザイナーがかなり気に入っているため、仕事の大半はその仕事になる。
専属以外のほかの仕事は、専ら涼雄と一緒の仕事以外は受けないことにしている。
そもそも俺は、将来モデルで生計を立てる気はさらさらない。
やっても大学卒業するまでと決めている。
一応なりたいものがあるから。
まだ、涼雄にも打ち明けていない将来の夢。
現実にしたい夢。
俺と違って涼雄にとってモデルの仕事は天職だと思う。
あいつほど、撮りたいと思わせる被写体はいない。
その涼雄を撮りたい。
それが俺の夢。
そう、涼雄専属のカメラマンとなるのが俺の夢。
カメラマンといってもそう簡単にそれで飯を食っていけないのはわかっている。
だから、今、モデルをしている。
今は、涼雄の専属を夢見ているけれど将来ほかのものに興味がいくかもしれない。
被写体は変わってもカメラマンになりたいという夢は変わらない。
その辺は、俺はプロのカメラマンである父親の血を引いているらしい。

窓の外を見るとまだいる。
結構長い時間いるようだ。
今日は特に寒い。
たとえ雪だるまのように着ぶくれしていてもこの寒空長時間外にじっとしているのは体に良くないだろう。
そう思って俺は、部屋を出た。

「そこにいるのって、沙織?」
確信をもって一応声をかける。
こちらに背を向けていた小さなからだがビクッとして、こちらに振り向いた。
門扉の街灯に照らされて見えた顔は、黒目がちの瞳、肌理がこまかそうな白い肌。
ニットの帽子と首に巻かれたマフラーで髪の長さはわからないけれど、前髪はさらっとしてそうな光沢がある。
確かに可愛い。
涼雄が、ずっと昔から恋してやまなかった存在。
最後に会った記憶に残る昔の面影もいくばくか残っている。
それにしてもちっこい。
ものすごくちっこい。
俺や涼雄が大きいってのもあるけれど、一般の女子高生の平均身長よりかなり低いその背。
愛らしいその顔。
一歩間違えば、犯罪じゃん、と、危惧したくなるほどの容姿。
涼雄って、そういう趣味なのか?
と、一瞬危惧するが、あいつは沙織が沙織だから好きなんだと瞬時にその思考を訂正する。
あいつにとって沙織の容姿は、二の次三の次だろう。
あいつが好きになったのは、そんなんじゃないのはわかっているから。
伊達に、誰よりもずっとそばであいつを見ていたわけじゃない。
「えっと、りゅ・琉くん?」
躊躇いがちに沙織がそう聞き返してきた。
沙織にその気がなくても危うい、その、何というか、変に男心をくすぐるというか刺激するような声音。
うはぁ、声までこれか、これでは涼雄はメロメロだろうな。
絶対、手放すことはあり得ないな。
と、涼雄の沙織に対する執着を納得する。
「そっ、で、こんな寒空の下でなにしてるんだ?」
平静を装いながら、答えなんてわかりきっているけれど敢えて聞いてみる。
「えっと、涼くんの部屋の明かりがついてるからいるかなぁって思って、涼くんにこれを渡したくて来たんだけれども」
といって小脇に抱えていた、物を俺に見せた。
どうみても、プレゼント。
そっか、そういえば今日はクリスマスイブだった。
なんかここ数年、涼雄ほどではないけれど仕事に追われていて季節感がなくなっている。
「涼雄のやつさっき仕事から戻ったばかりだから多分明かりつけたままベッドで寝てるんだと思う」
そういうと、一瞬沙織の顔が陰った。
「そっか、涼くんこんな遅くまで仕事なんて大変だね」
さっき一瞬見せた陰りを消して笑顔でそういう沙織。
「それ、涼雄へのクリスマスプレセントなんだろう? 渡しておいてやるよ」
俺にしては、今日は饒舌だ。
ふだん、涼雄以外には、心を開いている者以外には無口なのに。
沙織が、涼雄の内側にいるのが無意識にわかるのからなのか。
「たのんでもいい?」
遠慮がちに沙織が俺に聞く。
うわぁ、子犬だ、絶対子犬だ。
上目づかいに見上げられた姿は、おねだりする子犬そのもの。
よほどの精神破綻者でなければそのおねだりを無碍にはできないだろう。
「涼雄が起きたら、渡してやる」
そう確約して沙織から涼雄へのプレゼントを受け取った。
「はやく、家に戻れ。 結構長い時間ここに立ってただろ? 雪だるまのように着ぶくれしていても今日みたいに寒い日は風邪ひくぞ」
そう注意して、家に帰るように促す。
「うん。 琉くんありがとう、おねがいします」
そういって沙織は礼儀正しくお辞儀をすると俺に笑顔を向けてから踵を返した。
家といっても隣だが、とりあえず沙織が隣の家の門をくぐるまで見送った。

預かった、プレゼントはなにげなくリビングの机の上に置いた。
なんとなく自室に入れるのが躊躇われた。
どうせ両親は帰ってくることはない。
そこに置いておいても下手に詮索はされないだろう。
明日というより、もう今日だ。
今日は朝早く涼雄と同行の野外撮影がある。
朝、仕事に出かける前にその存在を教えることができるだろう。
自室に戻るのに涼雄の部屋を横切る。
多分寝ているだろう涼雄。
朝、目が覚めた時にさぞかし焦るだろうな。
と、そのときの光景が思い浮かんで苦笑する。
落ち込むのが手に取るように分かる。
けれど、あのプレゼントを見れば、落ち込んだ気分が浮上するだろう。
その姿もまた、容易く想像できて苦笑してしまう。
「仕事、ほどほどに、な?」
涼雄の部屋の前で一言そう呟いた。
あんまり、仕事、仕事してると沙織が誰かに掻っ攫われるぞ?
そう、言葉にせずに心で付け加えながら。

-完-


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