Bands of brotherhood - 信也 編 - 2008 X'mas EP |
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出先から帰ってきて、沙織の部屋を通り過ぎようとした時にかすかに咳が聞こえた気がした。 気になってそっと部屋のドアノブに手をかけてまわすとカギはかかっていなかったらしくすんなり開いた。 「沙織?」 声をかけながらドアを開け中をのぞくと、ベッドで赤い顔をして寝ている沙織。 時折苦しそうに咳をしている。 「え?」 一瞬、頭が真っ白になった。 どう見ても病人体の沙織。 苦しそうな息遣いが聞こえる。 こういうとき看病はされてもしたことがない。 何かしてやらなければならないと思うのだが、何をしてやればいいのかすら判らない。 俺ってつくづくダメ兄貴だ。 と、自己嫌悪に浸っている場合でなく、とりあえず現状を把握しようと沙織の部屋へ許可なく入る。 「さ、沙織? 大丈夫か?」 躊躇いがちで、尚且つ、ありきたりの言葉しかかけられない自分が情けなくなる。 俺の声でうっすらと沙織の目が開いた。 潤んだような瞳。 うわぁ、めちゃめちゃ可愛いぞ。 まぁ、なんだ、恋愛感情付きの感情でなく、いわゆる子犬に見上げられているような愛玩的可愛さとうのか? と、そんなことはどうでもいい! 逸れそうになる思考を無理やり遮断する。 「風邪か? 何かしてほしいことがあるか?」 とりあえず、本人がしてほしいことを聞いてみる。 「しん、や、お兄ちゃん?」 ちょっとかすれた声。 咽喉もやられているみたいだ。 沙織の額に手を置いてみる。 うわぁ、なんだこの熱さ! まずいだろうこの熱さは! 「沙織、医者いこう!!」 慌てて俺がそう言うと、 「・・・・・・うん、そうだね」 と、緩慢な声でそうやっと返事をした。 今日は、この前みたいに拒絶を含んだ返答ではなかった。 まぁ、この熱で朦朧としていたということもあるけれど逆にそこまで俺を心底拒絶している訳でもないらしいことがわかり、少しばかり嬉しく思う。 「今からタクシー呼ぶから」 そう言いながら電話をかけるべく沙織の部屋を出ると、 「信兄? どうしたのあわてて?」 廊下に居たのは怪訝な顔をした下の妹、詩織(しおり)。 「詩織、いいところにぃ! 俺、今からタクシー呼ぶから沙織の着替えとか出かける格好するように手伝ってやってくれ」 さすがに着替え云々は兄妹であってもまずいだろう、俺がやったら。 そう詩織に、言いながら一階のリビング向かって猛ダッシュ。 焦りながら電話帳をめくる。 電話をかけながら医者に行くのに必要なモノを考える。 金に保険証に診察券? ん? 沙織の保険証ってどこだろうか?かかりつけの医者ってどこなんだ? とりあえず、タクシーを手配してはたと気づく。 沙織に聞くしかない。 二階の沙織の部屋に戻ると、詩織がちゃんと沙織の着替えをしてくれていた。 「沙織、お前の保険証とか、かかりつけの病院とかどこ?」 そう聞くと、 「そこ、の、定期入れに」 と机の上に乗っている定期入れをさした。 俺は、沙織の定期入れを手に持ち中に保険証と診察券が入っているのを確かめてから、落とさないようにしっかり上着のポケットにいれた。 その後、沙織を毛布でくるみ抱き上げた。 嘘だろなんだこの軽さ! 背が低いからもあるかもしれなけれどものすごく軽い。 「詩織、俺、沙織と医者いってくるから留守ば・・・・・・」 「私も行く!!」 俺の言葉を遮ってそう詩織は、断言した。 「私も心配だから行く!!」 拒否を断固受け付けない顔でそう俺に訴える詩織。 珍しいモノを見た気がした。 普段、モデルのときや外に居る時はクールビューティ然としている詩織が年相応の顔をしている。 「さお姉、心配だから。 私も行くぅ!」 「判った、さっさとしたくしろ」 根負けして、そう詩織に言いながらそっと沙織の部屋をでる。 とりあえず直ぐいけるように玄関脇にあるリビングへ沙織を移動させておく。 リビングの窓からタクシーの到着を伺う。 そのうちに支度を済ませた詩織が、降りてきてリビングに入ってきた。 「ねぇ、信兄」 「ん?」 視線は窓の外のままで詩織の呼びかけに応答する。 「さお姉って、こんなに小さかったっけ?」 躊躇いがちに、詩織がそう聞いてくる。 「そうだな、昔から小柄だったと記憶しているけれど、俺も最近になって久しぶりに沙織と話した、というか声をかけた程度だったけれど驚いたよ」 最後にある記憶の姿と違っていないようで違っていた姿。 どのくらいの間、この上の妹と話をしていなかったのだろうか? 改めて思い知らされる。 兄なのに何も知らなかった、妹の現状。 家族なのに、本当に何も知らなかった、してやっていなかった。 してもらうばかりで、与えられるばかりで。 「なぁ、詩織。 何時もダイニングテーブルにあった弁当、誰が作ってたか知ってるか?」 俺が、最近知った真実を詩織に聞いてみる。 もしこれで、詩織が知っていたら更に落ち込むかもしれないけれど。 「うん、何時も美味しいあの豪華なお弁当でしょ? 家政婦さんじゃないの?」 怪訝な顔をしてそう答えた詩織。 俺は、ほっと、内心胸をなでおろした。 詩織も知らないらしい。 「あれ、ずっと沙織が作ってくれていたんだ。 いや、違うな。 今でもつくってくれている」 それを聞いた詩織はきょとんとした顔をしたあと、 「えええぇ?! あれ、あの美味しいお弁当、さお姉がつくってくれていたの?!」 びっくり顔をして詩織は沙織を見た。 沙織は、変わらず赤い顔で目を閉じている。 「俺も、最近知ったんだよ。 なぁ、俺たち兄妹なのに沙織のこと何にも知らないんだよな」 「そう、だね。 何年ぶり、になるのかな? さお姉見たのって。 でも、それって、変だよね? 家族なのに、姉妹なのに何年も顔をあわせていないなんて」 申し訳なさそうな顔をしながら詩織はそう言った。 そうこうしているうちに家の前にタクシーが到着した。 「やっときたようだ。 その話、また後でしようや。 とりあえず沙織を医者に連れて行かないと」 「うん」 俺は、沙織を抱き上げて、詩織はその後に続いて医者に行くべく家を出た。 この事で、下の妹、詩織まで超がつくほどのシスコンと化すなどと、この時俺は判るはずもない。 まぁ、俺もすでに詩織に負けず劣らずのシスコンなのだが。 -完- 修正日:2009/01/12 |
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