Dete -君となら何処へでも-  (メインサイト4万ヒット記念SS)


 今日の天気は快晴。
 もう、朝からとても奇麗な青空が広がっていた。
 前々から計画していた郊外デート。
 朝早くから沙織と二人で電車でのんびりと今日の目的地である森林自然公園へ向かった。
 目的地についたのは昼よりちょっと早いぐらいの時間で、せっかくだからと、森林浴をする目的で一番短いハイキングコースを手をつないでゆっくり歩く。
 ハイキングは一応考えていたから、今日の為に前々からちゃんと調べて其れなりの格好をしてきた。
 今日の沙織はめちゃめちゃ可愛い。
 髪型から服装まで。
 セミロングの髪を頭頂部から両脇へ編みこんで先を一つでくくっている。
 無地のピンクTシャツの上には薄い生地で七分袖のパーカー、インディコブルーのジーンズ、軽運動用のデザインスニーカー。
 シンプルだけれどもそれがとても似合っていてついつい顔がにやけてしまう。
 それに、いつもの町中デートとちがって表情が違った。
 本当に全く違うと言っていいほど、なんというか瞳が嬉しそうに「輝いている」のだ。
 嬉しくて、嬉しくて、たまらないと全身でオーラが出ているというか。
 もう、それだけで今日ここに来て良かったと思える。

 俺達が、歩いているコースには、そんなに人の姿はなかった。
 まぁ、まったくなかった訳じゃないけれど、家族連れがほとんどという感じだ。
 公園入り口の管理センターで貰った公園内の簡易マップを片手に、手を繋いで、周りの景色を堪能しながら、ゆっくり歩く。背に差が在りすぎるから歩く速度は何時も気をつけている。
 そのせいかゆっくり歩くのが当たり前になりつつある。
 なんだろうなぁ、沙織といると俺はいつも穏やかでいられ、どんなこともこなせる自信がわいてくる。
 二月のあの日から考えを固めたからなのか、彼女の位置づけを明確に固定したからかもしれない。
 例えるなら狭くなっていた視野が広がったような感じだ。
 俺が変わったからなのか、彼女も少し変った。
 今まで内に秘めていたようなことも言葉にするようになった。
 全部じゃないみたいだけれども、前に比べれば格段に違う。
 そんなことがあったからか、前々から少し感じていた彼女との距離がぐっと縮まった気がする。
 
 他愛もない会話をしながら、ハイキングコースを行くと、あっという間に折り返し地点でもある広い芝生の広場に出た。
 そこは、本当に穴場だった。
 ゴールデンウィークも過ぎた頃だったのもよかったのかもしれない。
 広場に居るのは片手で足りるほどの人の姿しかなかった。
 丁度良い具合の木陰が出来ている樹の下に2畳ほどのレジャーシートを引いてのんびりと二人で過ごす。
 今日のために昨日の夜から下ごしらえをしたと言っていた弁当が目の前に披露される。
 弁当の内容は、これでもかというくらい俺の好きなものばかりだった。
 こういうのなんか良いなと思う。
 映画を見たり、食事したり、ショッピングしたり、テーマパークへ行ったり。
 そればかりがデートじゃないよな?
 かえって、こういうデートの方がのんびりできるし二人の時間を誰にも邪魔されずに過ごせるのがなんだかいい。
 仕事柄見られるのはなれているけれど、疲れない訳じゃない。気にならない訳じゃない。
 ここは、そんなことがない。なんの視線も感じない。
 いや、沙織の視線だけ感じることが出来る。
 人の視線を気にしなくて済むということは、普段出来そうもない「おかずを食べさせあう」こともできる。 
 初めは俺から、沙織の口におかずを運ぶと彼女は最初躊躇うような恥じらうような表情をしたけれど素直に食べてくれた。

 あぁ、もうなんて悩殺的な可愛さなんだ!
 
 その仕草全てが可愛すぎて、この時の俺はほとんど思考回路がめちゃくちゃに壊れていた。
 お返しとばかりに、沙織が俺の口元におかずを運ぶと俺はそれを間を置かずに口に含む。

 あぁ! これぞ至高至福の時間だ!

 この広く長閑で静かな空間は全てを解放してくれるようだ。
 何の気兼ねもなく沙織とイチャつくことができる。
 弁当が終わると、元々がさばらない様に折りたたみの弁当箱を用意して多様で行きよりもバックがすっきりとした。
 食べたばかりであんまり体に良くないのだが、俺は沙織の膝に頭を乗せて寝ころんだ。
 一度はやりたかった、『膝枕』だ。
 何も言わずにやってしまって、ちょっと伺いつつ沙織の顔を見上げると、そこにはとても柔らかい笑顔があった。
 沙織のが手が俺の髪をそっとなでる。

 今なら、死んでも後悔はない!(本当に死ぬのは嫌だが。沙織を残して死ぬ訳にはいかない!)

 そんな気持ちになる。
 その心地良さにいつの間にか寝てしまっていた、俺。
 夢現の半覚せいのとき、唇にしっとりとした感触が広がった。
 それに驚いて目を開けると、至近距離に沙織の顔が在った。
 俺が瞬きすると、見る見ぬうちに沙織の顔が真っ赤になる。
 状況を把握したのか、沙織は顔を勢いよく離して目を泳がせた。

 今の、キス? 沙織から?

 初めてじゃないだろうか?
 付き合い始めてからキスは何度もしているけれどほとんど100%俺からだ。
 今、初めて、沙織からしてくれたキス。とてもしっとりとした唇の感触。
 飛びそうになる理性をかき集める。
 けれど体を起して、彼女を抱きしめることは止められなかった。
 すっぽりと俺の腕に収まる。俺の大切な存在。
 お返しとばかりに、俺からも彼女にキスをする。
 更に真っ赤になる沙織の耳元で「初めての沙織からのキス」と囁くと、彼女は自分の顔を隠すためにさらに俺の胸に顔を埋めた。
 耳まで真っ赤だ。食べごろもぎたて、と変な言葉が脳裏に横切る。
 けれど、こんなところでは絶対無理だ。
 生殺し状態だけれども、彼女に嫌われたくはない。
 それだけは、阻止しなければならない。
 とりあえず、ギュッと抱きしめて、自分を落ち着かせる。
 今日は、誰の邪魔もなく十分すぎるほど沙織を堪能することが出来たのだから。

 この日を境に休日デートは、郊外の自然公園が定番となった。




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