新年に願うは


微かに聞こえる、梵鐘の音。
今年もまた暮れて、あと数分後に新しい年が始まる。
今日は、とても寒い。
けれど、おかげで空は澄んでいて雲ひとつない夜空。
満点の星が輝いていて、六等星の星までもくっきり見える。
ふと視線を感じて見上げると涼くんと目が合った。
私は今、涼くんのコートの中。
こういうときは小さくてよかったなぁってちょっぴり得した気分になる。
2人で初詣の列に並んで其の時を待っていた。
有名どころではなく、近所の神社なんだけれどもそれでもそれなりに人がいて賑わっている。
神社の境内の脇には町内会のテントが張られていて、そこから甘酒の匂いが漂っている。
お参りに来た人に無料で配っているらしい。
「今年も、あと少しだな」
ぽつんと、涼くんが私を優しい目で見つめながらそうつぶやいた。
「そうだね、今年もあと少しで終わりだね」
私は、にっこり笑ってそう答えた。
「今年最後の瞬間と新年の最初の瞬間を沙織と共に迎えられるのがとてもうれしい」
腰をかがめてうれしそうにそう耳元でささやく涼くん。
「わ、わ、わたしも」
ドキドキしすぎてどもり声でそう答えてしまった。
多分、今の私の顔は真っ赤に染まっている。
涼くんは、クスッと小さく笑いながら姿勢を直す瞬間私の唇に軽くキスを落としていった。
心臓がとまりそうだよ。
神社は、所々にたかれた焚火以外は光源がないため薄暗。
一瞬だったから、周りの人に気づかれてはいなかったとおもうけれども、とってもはずかしい。
はずかしいけれど、とてもうれしかった。
今年最後のキス。

「あ、あと10秒!」

どこかで、誰かが、そう言いった。
それにあわせて、誰かがカウントダウンを始めた。

…… 6、5、4

もうすぐ新しい年がはじまる。

3、2、1 !

一斉にあたりに飛び交う、新年のあいさつ。

「明けましておめでとう沙織。 今年もよろしく」
「おめでとうございます。 こちらこそよろしくね」
涼くんと私もそれに漏れなく挨拶をかわす。
挨拶が一通り止むと、並んでいた列が動き始めた。
早いうちに来て並んでたおかげでそう待たずにお賽銭箱の前にたどりついた。
お賽銭を入れて、二礼二拍手。
私の願いはすでに決まっている。

迷うことなく、願うはただひとつ。


来年も、涼くんと一緒にいられますように ……



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