黒き竜は黒瞳を愛す

01.君は優し過ぎるから



 彼女は、いつも微笑んでいた。

 無表情な俺を不快に思うことなく。

 俺の望みどおり、常に側に居てくれる。

 不平を口にすることもなく、我がままを言うこともなく。

 ただ、静かに俺の側で微笑んでいる。

 俺の求めに応じてくれる。

 歴代の巫女とは違い、俺に安らぎを教え、安らぎを与え続けてくれる。

 抱きしめるだけで、孤独が癒され、喜びに包まれる。

 この想いは、人の言葉でなんと表現するのだろうか?

 その言葉を知りその言葉を彼女に贈ったら彼女は喜んでくれるだろうか?

 君は優し過ぎるから。
 
 その想いに酬いたい。

 君が、望むことはなに?

 そう、聞けたらどんなによいか。

 俺と彼女、竜神と巫女、竜種と人間。

 言葉を音にして交わすことは叶わない。

 たとえ、音にしても彼女は理解できないだろう。

 俺も、人の言葉は理解できない。

 意思疎通は、感情のこもらない思念でのみ最低限交わすのみ。

 もどかしい。

 俺のこの気持ちを彼女に知ってほしい。

 時折見せる不安げな、寂しげな微笑。

 それは、一瞬のことだが、その寂しげな笑顔がなぜか胸に刺さる。

 安心させるように抱きしめても、彼女には俺の想いは半分も伝わらない。

 どうしたら、彼女を心のそこから安心させる事ができる?

 どうしたら、この想いを伝えることができる?

 想いが伝わらないというのは怯えを生む。

 彼女に嫌われたくない。

 その想いは俺をいつも苛む。

 だが、抱きしめると体を預けてくる彼女の重みは、そんな俺を慰める。

 俺を安心させる。

 願わずにはいられない。

 彼女の心が俺から離れないことを … …




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