- 黒き竜は黒瞳を愛す - | |
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01. 身も心も囚われる | |
【彼女の視点】 目の前にその偉大で巨大な黒き竜神が鎮座し、私を見下ろしていた。 赤く澄んだ真紅の瞳。 艶のある漆黒の鱗。 畏怖と同時に愛しさが募る。 彼に会うのはこれで二度目。 彼は覚えていないだろう、些細な邂逅。 一度目に会ったとき私は、その美しさ、気高さ、優しさにふれ一瞬で彼に恋をした。 彼にもう一度会いたいがために竜神をあがめる神殿に入信した。 努力に努力をかさね修行を積み竜の巫女の座を手に入れた。 もともと、だれもなりたがらない役職ではあったのだけれども。 今日、晴れて彼の住む深山へ赴き彼の巫女として使えることの許しを請うために彼の目の前に赴いた。 その姿は、あの時と変わらずそのままで。 竜神の姿がゆれたと思った瞬間目の前に仰ぎ見るほど背の高い男性がいた。 漆黒の髪と真紅の瞳、黒い装束に身をまとい私を見下ろしていた。 竜神の人体。 たくましい男性。 その顔は整っていたが、無表情。 ふいに彼が膝を折り、私と視線を合わせてくる。 私は、彼に彼の巫女として使えることになると唯一教えられていた竜の言葉で挨拶をした。 私の頬にそっと手で触れてじっと私を見つめる。 近くで見た彼に、私の頬が赤く染まるのがわかった。 ゆっくり彼の顔が近づいてくる。 儀式が始まるのだ。 竜神の巫女としての承認と契り。 私は目を閉じた。 自分の唇に彼のぬくもりが重なるのがわかった。 触れるだけと思ったその承認の口付けは深く長くまるで私の唇を味わうように何度も交わされる。 拒む間もなく生まれたままの姿で横たえられて契りが交わされる。 彼の息遣いが耳に響く。 与えられる熱と甘い痺れに狂いそうになったその瞬間なんともいえない痛みが襲う。 逃げることもできずにがっちりと押さえ込まれ、痛みと共に未知なる感覚が私に襲い掛かる。 次第に意識は白い世界に飛び、一瞬にして意識を手放した。 その後、私は神殿には戻されず彼のもとにいる。 それは彼が望んでくれたこと。 身も心も囚われた、私が望んだこと…… |
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【彼の視点】 一瞬だった。 その姿をその瞳を見た瞬間に囚われた。 俺に比べたら本当に小さな小さな生き物。 だが、意志の強い瞳を持ち、魂は眩しいほど輝いている。 竜体の俺の姿を見ても驚くことも恐れもせず、その小さき者はふわりと微笑んだ。 ためらいがちに伸ばされた小さな手で俺の前足にそっと触れる。 触られた場所からどうしようもないほどの快感が体全体に広がった。 もっと、近くでみたくて竜体から人体へ変化する。 人体に変化しても小さき者はとても小さかった。 俺を見上げて微笑んでいる。 俺がひざを折るとようやく目線が近づく。 目の前の小さき者は、俺に礼をとると新しい巫女として来たと竜の言葉で告げた。 今まで、何人もの巫女が来たが彼女ほど俺の心を捕らえた者はいなかった。 震えそうになる手でそっと彼女の頬に触れる。 滑らかでやわらかく暖かな肌。 俺の鱗の色のような彼女の漆黒の瞳に俺自身が写る。 彼女は、ほんのり頬を赤く染めるといっそう笑みを深めた。 その微笑を見た俺は、彼女にゆっくり絡みとられる。 その甘い束縛は、俺をやんわりと締め付ける。 俺は、ゆっくり彼女の唇に承認の口付けを贈り、儀式にのっとり彼女を横たえ契りを交わす。 儀式のはずが、俺は我を忘れて彼女におぼれる。 身も心も彼女に囚われる。 何も考えられなくなり、そのとき俺は竜でも神でもなくただ一人の男として彼女と契りを交わしていた。 もう、離せない。 離せなくなった。 彼女を神殿には帰さずにずっと自分の側に据え置く。 彼女の生が、尽きるまで…… |
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