- A coincidence-
『 帰り道 』 涼 雄 & 沙 織 side


 夏に近づくごとに夕日が沈むのが遅くなる。
 まだ明るい夕日に照らされて、2人の影が中睦まじく寄り添うように伸びる。
「今日は、とても楽しかった。 秀太君ね、思ってた通りとっても元気でいい子だったの。 弟がいたらあんな感じなのかな?」
 沙織は、手を繋ぎながら嬉しそうに今日あった出来事を隣で歩調を合わせてゆっくり歩く涼雄に、報告する。
「校外授業は正確にはあとどのくらいあるんだったっけ?」
涼雄は、ちょっと考えてからそう聞くと、
「えっと、確か後4回かな?」
頭の中で校外授業の回数を呼び起こしながら沙織はそう答えた。
「次回も家庭科の課題でなにか作って行くのか?」
沙織の所属する学科のみにある幾つかの教科が合体したような特殊な授業があって、校外授業を軸にいろいろな教科から課題が出るのだ。
沙織の場合、選択教科で家庭科を選択している為そこから課題がでるのはずなのでそう涼雄は聞いてみた。
「次は、子供と一緒に出来る簡単なお菓子のレシピを考えるの。 栄養とかも考えないといけないからちょっと大変。 それに、好き嫌いとかもあるから、次に会うまでの文通でちゃんと上手くリサーチしないとね」
苦笑を浮かべながら、沙織はそう答えた。
「そう言えば涼君、山上さんのこと名前で呼んでたね」
沙織が何気なく疑問に思ったことを涼雄に聞くと、
「深夜さん自身が名前で呼んでいいって言ってくれたから、そう呼ばせてもらってる」
涼雄は嬉しそうに表情を緩めてそう答えた。
「名前で呼び合うのって気を許してくれてる感じでなんだかいいね。 私が知っている限りで涼君の周りでそう言う感じの人って、友永生徒会長と信也お兄ちゃん位だから」
ちょっとうらやましげにそう沙織が涼雄に言った。
「なんだろう。 深夜さんって変に緊張しないで話せるし、感覚的には『なんでも相談できる年の近い兄貴』と言う感じに近いんだよな。 けれど、それもちょっと違うかも。 上手く表現できないな」
涼雄は、夕暮れて行く空を見上げながらそう答えると、
「そうだね。 そういう感じだったら柚子葉さんにも感じたな。 お姉ちゃんがいたらあんな感じかな?」
沙織も、涼雄につられて空を見上げる。薄暗く陰った場所に星が見えた。
「ふふっ」
と、沙織が突然笑い出した。
「……どうした急に笑って?」
怪訝に思って、涼雄がそう聞くと、
「だって、もしね、山上さんと信也お兄ちゃんが一緒に居たとして、その時涼君がどちらかを呼ぶ時どちらも 『しんや』だから大変だなって思ったらおかしくて」
「まぁ、確かに。 けれど、山上さんと信也と一緒に居合わせることは多分ないと思うけど?」
確かに、そんな事態になったらややこしいことこの上ないだろうと涼雄はそう思った。
「わからないよ? 今日だってあり得ないほど偶然が重なっていたし、この先何が在るかなんて誰にもわからないでしょう?」
今日のこの怖いくらいの偶然を思ってか、沙織はそう反論する。
「それもそうだな。 案外、この先も深夜さんたちと頻繁に会ったりして」
「それはそれで素敵だね。 また、私も柚子葉さん達に会いたいし、もちろん秀太君にもね」
その後も二人の間に会話は尽きず彼らの家に着くまでそれは途切れることはなかった。

 そして……
 
 この時二人が交わした会話の内容が実現になるとは、二人は夢にも思わなかった。




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写真素材:ミントBlue
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