- A coincidence-
『 帰り道 』 深 夜&柚子葉 side


 いつも通る道を深夜と柚子葉は間に秀太を挟んで歩いていた。
 秀太は先ほどからずっと沙織からもらったぬいぐるみ、『しんや』くんと話している。
 その上で深夜と柚子葉は今日のことを振り返っていた。

「深夜は沙織ちゃんがあの保育園にいることは知ってたの?」
「あぁ。 駅前で涼雄と話したときに聞いた。 けど、まさか絹瀬の担当が秀太とは思わなかったけどな」
「あれ? 深夜って真宮君のこと下の名前で呼んでたっけ?」
「あ〜、今日呼ぶようにした。 涼雄にも俺を下の名前で呼んでいいって言ったし」
「珍しいね……」
「あ? なにが?」
「深夜が下の名前で人を呼んだり、呼ばせたりするのって。 私が知ってる限りだと、翔君と、衛君……だけじゃない?」
「家族を除けるとそのぐらいかも、な。 涼雄に『山上さん』って呼ばれるのなんか変な感じがしたんだよ。 上手くいえないけど、な」

 深夜がそういうと柚子葉も自分が思い当たることがあったのか頷く。

「私もそれわかる。 後ね、私沙織ちゃんのことを妹のように思ったの。 本当はいないんだけど、『いたらこんな感じなのかなぁっ』て……」
「俺は涼雄のことを柚子のように弟みたいとは思わなかった。 けど、翔や衛とは違うけど涼雄には俺は気を許してる。 初めての感覚だよ、あんまり会ってないのに相手の行動が分かるっていうのは」
「真宮君とはどんな話をしたの?」
「特には。 受験の話とか涼雄の将来のこととか。 柚子は、絹瀬とどんな話をしたんだ?」
「えっと、家事の話とか、後は沙織ちゃんが手芸が趣味だからそういう話」
「そういえばあのぬいぐるみとスモック手作りって言ってたな」

 深夜が秀太に目を向け、柚子葉も同じように秀太に目を向ける。
 秀太はよっぽど嬉しいのか、『しんや』くんをギューと抱きしめている。
 深夜と柚子葉は顔を見合わせて笑みを浮かべる。
 ふと深夜は思い出したかのように柚子葉に声をかける。

「そういえば……絹瀬って校外授業でここに来たんだよな?」
「うん。 私達の学校にはないからちょっと羨ましいな。 けど、それがどうかしたの?」
「あ、いや。 だったら、この辺で会うのはないなと思って。 あいつらの学校はこの駅じゃないし、家もこの周辺じゃないだろ」
「沙織ちゃんまだこの保育園に来るんだって」
「え?」
「沙織ちゃんの話しだと、校外授業はまだ何回かあるんだって」
「へぇ〜、そうなのか。 もしこの一回だけならすっげぇ偶然だなと思って」
「でも、今日だって凄い偶然じゃない?」
「まぁ、そうだけどさ。 けど、明日とか昨日だったら柚子じゃなくておばさんが秀太を迎えに行くし、俺だって今日じゃなかったら本屋に行ってないかもしれない」
「そう言われると……本当に今日の偶然って凄いよね」
「あぁ。 これだけ重なるとまた何かあるんじゃないかって思うよな?」
「うん。 そうなったら嬉しいな。 また沙織ちゃんと話したいもん」
「俺も涼雄ともっといろんな話がしたいな」

 深夜と柚子葉は住んでいるマンションまでずっと今日のことを振り返り、そしてこれからまた涼雄と沙織に会いたいと願っていた。


そして、その願いは近い将来実現されることはまだ二人は知らない……


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写真素材:ミントBlue
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